医院ブログ

2021.02.23更新

   西暦2020年という年は、実にこの国に56年ぶりの夏季五輪が帰ってくる記念すべき1年になる、筈でした。

 2019年11月末から12月初めごろに、中国長江とその支流である漢江の合流部に位置する1000万人都市 武漢からこの今世紀初の‘パンデミック’は始まったとさせています。
 元々、コロナウィルス(HCoV)は小児の風邪の原因ウィルスで、高熱がでるものの軽症で収束する、比較的大人しいウィルスでした。2003年に世界37か国で8000人以上に感染し、700人以上を死に至らしめたのは、この本家コロナウィルスから派生したSARS(Sever Acute Respiratory Syndrome;重症急性呼吸器症候群)ウィルスでした。幸いにも、SARSは日本で発症者を出すことなく、発見から4か月であっというまにこの世から消え去りました。その理由については当初、WHOを基軸とした各国の防疫体制が素晴らしく有効に機能したからなどと喧伝されましたが、この新型コロナ騒動から翻って考察すると全く別の理由が見えてきます。SARSは初期より急速に肺炎で発症し、あっという間に重症化してしまうので、動き回って他人に移してゆくことが極めて少なく、高い致死率ゆえにウィルスそのものの自滅を早め、早期終息したというのです。
 それに対して、新型(SARS-CoV-2)はどうでしょうか。感染者の80%は無症状か軽症(軽い風邪)で、最も恐ろしいのは、今まさに自分の目の前にいる、いつもと変わらない元気な(に見える)家族、友人、同僚らからも知らぬ間にどんどん感染が拡大していくというのです。ですから、SARSと違って瞬く間に、地球規模のパンデミックに陥ったというのです。また、さらなる落とし穴もいくつもありました。全感染者の30%を占める20歳代は、重症化率及び致死率が低いことをいいことに無防備に感染する傾向にあり、高齢者への感染拡大を助長したともいわれており、その移された側の高齢者は、体力の低下や基礎疾患を背景に、70歳以上で8%、80歳以上では20%と高い致死率(全年代では2%)という現実に直面しています。
 ただし、若年の感染者でも、退院後も数々の後遺症に苦しんでいる方がかなり多いという報告が多く出てきています。詳細は現在厚労省が取りまとめ作業中ですが、いろいろな統計を見渡しても、20歳代においても20%前後の人で退院2週間時点で、嗅覚低下、倦怠感、味覚低下、呼吸困難感、頭痛、脱毛、胸痛、集中低下等々の後遺症と思われる症状に悩まされているとのこと。人によっては、陰性確認後も数か月から半年以上経過しても未だに症状が持続し、闘病を余儀なくされ続けている方々がおられるというのです。つまり、若かろうとも移らない努力と、移さない心がけが如何に必要な感染症かということが、この感染症には肝になるようです。社会福祉大国であるスウェーデンは、このパンデミックでは何故か、この事態において対応を誤り、集団免疫の獲得と称し欧州各国が実施したロックダウンはエビデンスがないとして同調せず、その結果大規模な感染拡大が食い止められず、国王がその失政を認めるに至っております。同国が人口1000万人で、今月21日現在で感染者63万人、死者数12000人以上(人口10倍以上の日本では同時点で感染者42.5万人、死者数7500人)は、結果が全てを物語っております。
 昨年末から米国、英国を皮切りに、先進国を中心に各国で新型コロナのワクチン接種がスタートいました。わが国でもこの2月中に医療関係者の先行接種が漸く始まったところです。ワクチンの有効性に関しては、昨年末から徐々に囁かれだした変異株(英国型、南ア型、ブラジル型等)に対する有効性の低下の可能性が議論されてはいるものの、接種の進むイスラエルなどでは接種後の感染者数が激減しているデータなどから、おおむね良好な効果が期待されています。
 ただ、懸念されることはやはり接種後の副反応のデータの集積が乏しいことが、不安の源となり、アンケートで接種希望と見送り希望がほぼ半数ずつと反応に反映されています。海外の接種の状況からは、いわゆる急性重症アレルギー反応(アナフィラキシーショック)の発現率は100万人当たり数人から10人程度で、インフルエンザワクチンの100万人当たり1人と比べると最大で10倍にありますが、これを多いとみるかどうか・・。
 そもそもワクチンの趣旨は、免疫を有しない国民に広く接種することで、集団免疫を獲得し現在進行形のパンデミック拡大に終止符を打ち、平穏な日常を取り戻すことです。ですから、一人でも多くの方々が接種することが絶対条件なのですが、アンケート通りで、単純に人口の半分程度しか接種しなかった場合、当然ながら集団免疫は形成されず、その間に新たな変異株の出現を許し、パンデミックの波はその後も、非常事態宣言とgo to ○○の間で何度も何度も振り子の如く繰り返され、結果人々の心身は疲弊し、社会経済活動も再生困難なほどに荒廃し尽くす危険性はないのでしょうか?
 国は各国との争奪戦の結果、ワクチンの全国民分相当量を確保したとしつつも、最終的に接種の是非は個々の自己判断に委ねるという、一歩引いたスタンスをとっています。国策でありながら、接種の推進に今一つ『国主導』が見えずらい状況です。急性期のアナフィラキシー反応のみならず、データのない晩期での副反応なども今後疑われた場合に、国は薬害の被告となるトラウマが再びフラッシュバックの如く蘇るのでしょう。新三種混合ワクチン(新MMRワクチン)や最近では子宮頸がんワクチン(ヒトパピローマウィルス;※因果関係は最終的に証明されていません)のように。
 だとしても、データのないことに関しては、今、議論する意味もないし、時間もない。この国の、また世界中の人々の健康が、そして暮らしが、コロナによって破壊されつつある状況で、明らかに急性反応(特にアナフィラキシーショック)の高リスクと考えられる方々を除いては、基本的に社会とのつながりを持ち、日々生活をしている人々が集団免疫の獲得に向けて、出来るだけ多く参加されることが重要と考えます。その目標達成のためには、医療機関、医師会、各自治体がそれぞれの得意分野を生かして相互協力をしつつ、この壮大な国家プロジェクトの成功を目指して積極的に前に出ていくしかないと思います。そのためには、一定割合では起こりうるアナフィラキシーショックに対しては、各接種会場で万全の備え(エピネフリン注、ステロイド剤、気道確保器具、AEDなどの確保と緊急時対策マニュアルの整備)はこの事業推進には最低条件と思われます。不測の事態にもしっかり対応してもらえると理解が進めば、接種会場へ足を運ぶ人々には安心感が広がることと思います。
 ワクチン接種自体のみならず、アナフィラキシー対策も転ばぬ先の杖であり、全世界を覆う漆黒の暗闇に差す一筋の光明となることが、強く期待されています。

 当院も医療機関の端くれとして、門真師医師会に属するものとして、スタッフともども、門真市の集団接種には微力ながらお手伝いさせていただく所存です。

投稿者: 内科・消化器内科 杉本クリニック