医院ブログ

2020.05.06更新

パンデミックそして、インフォでミックの恐怖
2020年正月。オリンピック・イヤーの幕開けとして、国内全体に何かいつもとは違う少し浮足立つようなワクワク・ソワソワ感が漂っているような、そんないつものは少し違うお正月であったか。
そのような日本国内にあって、海の向こうの中国の内陸で起こり始めた騒ぎが、我々の肌感覚としては自分たちには直接関係のない別世界の話題であり、対岸の火事という程度の認識に過ぎなかった。いくら武漢という耳にすあまり耳にすることの少ないる都市で、急速な感染拡大が起ころうとも、死者数の増加がセンセーショナルに伝え始められようとも。
1月下旬、時は中国の旧正月の春節。毎年、国内のみならず世界中に数百万人が世界中に旅立つ。2019年には、優に600万人を超える数であったそうな。今年はこの新型コロナ騒ぎで、武漢を含む湖北省の人々は自制されたり、途中から規制されたりしたものの、規制前にすでに各国に入国してしまっていた人々が、この未知なるウィルス(COVID-19)のキャリアになり、春節から数えてこの2か月足らずで、瞬く間に世界中に拡散してしまったことは、報道等で皆さんもご承知の通りである。
以前におこった、SARS、MARS、日本国内でも広がりを見せた新型インフルエンザでは、感染の拡大が比較的地域限定であったり、感染力が然程強くなかったり、新型インフルエンザに関しては治療法が存在していたりと、人々の不安は限定的であったと思われる。しかし、このCOVID-19は徐々に判明しつつあるとはいえ、ウィルスの全貌は未だよくわかっておらず、予防法や治療法も今のところ確立しておらず、まさに人々にとって、悪魔のような存在である。もちろん、感染症の専門家と称するいろいろな方々が、‘軽症者が多く、重症化率や死亡率が然程高くない’だとか、‘そのうち、だれもが罹り(かかり)、克服する風邪の一般的なウィルスの一つになるだろう’など、楽観論を投げかけても、この姿なき悪魔は人々に恐怖と絶望感で包み込んでいくばかりである。
自らの意思のみならず、多くは国や地域社会の呼びかけにより、集会のみならず移動や外出の制限を実施することは、状況により必要であることは間違いない。ただ、その制限が不要不急に限るものを超えてしまうと、それこそ有史以前の狩猟時代、しかも小型動物を対象に個々に狩りを行っていたころの、完全個別自給自足時代(本当のこのような時代が存在したのかは不明)にまで戻ってしまうのではないだろうか。つまり、究極的には人同士のつながりを絶つことを求めるものになりはしないかと。もちろん、そのようなことは不可能であるのだが、えてしてこの21世紀に生きる現代人が世界的に初めて経験するパンデミックに遭遇して、より過激で過剰な排他的でかつ個人主義的な行動に走ると、ウィルスそのもののではなく、その行き過ぎた負の連鎖が過剰に自己防衛に走らせ、その結果、経済の混乱や社会秩序の崩壊を招き、それこそ20年遅れのノストラダムスの地球滅亡説を地で行くことになりかねない、というのはいいすぎだろうか。
このパンデミックという一連の恐怖は、ネットやSNSといった新しい通信手段に乗り、急速に色々な情報が拡散させてしまう。正確な情報のみならず、裏が取れていない不確かなものであったり、全く根拠のないフェイクニュースなどもあたかもそれらしい脚色を施されて、リアルニュースに紛れて拡散し、問題の解決を遅らせるいわゆるインフォデミックが、より事態を深刻化させていく。
この先の予測は全く不透明である。もちろん、日本国民の期待を背負った世界的イベントの行方もひとまずは1年後に先延ばしになったが、来年中に行えるかどうかは、誰にも見通せない。ただし、そろそろ4Gから5Gへと切り替わろうとしている現代社会の情報や通信の発達はマイナスに作用すばかりではない。当然ながら、ウィルスの判定に欠かせない検査、治療薬、加えて予防ワクチンに関して、現在世界中の研究者、各種公的保健機関、民間医薬品メーカー等々がかなりのスピードで開発を進めていることは間違いない。特に、民間のメーカーは社運をかけて開発を進め、言葉は悪いが一発当たれば、莫大な利益と社会的貢献への評価を手中にするため必死であろう。そのため、予想より早くこの未知の悪魔を克服できる日はそう遠くないでは、と希望的観測も込めて願うばかりである。
その日が来るまでは、色々な意味で‘忍耐’が必要も知れないが、不要不急・・は当たり前としても、全員がほんの少しだけ普段より自分に対してはほんの少し厳格にする、例えば、いつもより丁寧に手洗いをすること、咳エチケットやソーシャルディスタンスを守ることなどが自分自身を、ひいては家族や社会全体をも守ることにつながるのではと考えるのだが。
最も恐れる敵はこの姿なき敵そのものではなく、人々の奥底に潜む排他的で利己主義的で猜疑的な感情ではないかと思う。ウィルスの脅威が去ったとしても、このような負の感情は一旦、人々の心の中に深く強く根ざしてしまうと、原因が去ったのちにもその根茎は容易には排除されず、友人知人間の結びつきのみならず、地域社会などの結束や助け合いにも、深刻な歪を残すのではないかと懸念される。
そうならないためにも、デマに惑わされることなく正確な情報を皆で共有し、適格な対処を心がけていきたいものである。

 

投稿者: 内科・消化器内科 杉本クリニック