医院ブログ

2019.03.08更新

『血便』、その原因/正体を考えてみます。
血便という言葉から、皆さんはまず何を想像されますか?
多くの方は良性疾患の代表である『痔』を連想される方が多いのではないでしょうか。また、一方、悪性疾患の代表である大腸がん(または直腸がん)が頭に浮かぶという方も少なくないでしょう。
 血便のことを考える前に、そもそも『便』とは何でしょうか?お食事中の方は申し訳ありません。当然ながら便は、日々摂取された栄養源である飲食物を7-8メートルもある筒状の臓器内で様々な酵素やホルモンによって消化と称して、栄養分を取り込みやすい形態に変化させ、順次小腸で吸収してゆきます。この時、吸収に至らず大腸へ送り込まれた泥状の謂わば残り物が、水分の吸収を受け徐々に塊となり、肛門を経て排出(排せつ)されるものが、言うまでもなく、便(大便)です。
 この便に、主に消化管内で何らかの原因で流れ出た血液が上述の便と混ざり合って出てきた便のことを血便と呼んでいます。よく似た意味合いで使用される用語には、下血というものがあり、主に口から吐き出す吐物に血液が混ざるものを吐血と呼び、下から(肛門から)出る血液を下血とも呼んでいます。実際には血便も下血も然程厳密には区別されていないので、本稿では血便と統一いたします。
 多くの方は血便の色は血液そのものの色である、鮮紅色を想起されることが多いとおもいます。しかし、実際には、暗赤色から殆ど真っ黒(コールタール様、イカ墨様)という血便もみられることがあります。この色調の違いは、主に消化管のどこから出血しているのかということが関係しています。つまり、肛門に近ければ近いところでの出血であればあるほど、便とともに出てくる血液はより鮮やかな赤っぽさを呈します。逆に、肛門から遠ざかれば遠ざかるほど、色は暗く黒色に近づき、炭(墨)のような色になります。特に、胃やその周囲(口の中、食道、胃、十二指腸)の出血(時に鼻血を飲み込んだ場合)は、ギョッとするような黒い便が出てくることがあります。逆に、明るく、鮮やかな紅色の場合は肛門に近い場所の出血が疑われますが、一点留意すべきことは、便通の状況です。つまり肛門に近い、直腸やS状結腸などから出血があっても、便秘が強いと血液がその場にとどまているうちに腸内で酸化し黒ずんでしまう可能性はあるため、この点も考慮する必要が生じます。
 消化管出血は特に出血量が多い場合は生命を脅かし一刻を争うことすらあり、行うべき精密検査(内視鏡検査)が上部内視鏡検査(胃カメラ)かまたは大腸内視鏡検査であるのか、便の色が重要な判断材料の一つになります。ただし、真っ赤であるにせよ、真っ黒であるにせよ、出血量が多い場合は、その出血原因(出血源)がどうであれ、体にとっては緊急事態であるため、できるだけ早急に医療機関への受診をお勧めします。特にめまい、立ち眩み、冷や汗、倦怠感(だるさ)、血圧低下、脈拍(心拍)が多かったり動悸を自覚するような場合は、迷わず救急車を呼びましょう。
 では、便に少しだけ血液が付着している場合はどうでしょうか。便の表面に少量ないし薄っすら血液が付着している、又はトイレットペーパーで拭いたときに血液が付着した、というケースです。この場合、出血量は多くはないため、緊急性は高くありませんが、問題は付随する症状(腹痛、肛門痛、下痢、嘔気/嘔吐、食欲低下、めまい/ふらつき)がなかったり、血便自体がその後自然に治まってしまって、そのまま受診せずに放置してしまう場合です。
折角(?)の病気のサインをみすみすスルーしてしまうことになってしまい、場合によっては大腸がんなどの病気の進行を許してしまうことになりかねません。このことは、大腸がん検診で陽性反応が指摘されたにもかかわらわず、放置されてしまうケースにも当てはまります。
どうせ、自分は痔があるからと‘自己診断’されると、思わぬ落とし穴に落ちることがありますので、どうぞお気を付けください。仮に痔があっても、その先につづく腸の中に出血の玄原因になるものが存在するかどうかは、検査するまではわかりませんので・・
40歳以上など、一定の年代以上では、肉眼的な血便にせよ、検診での便潜血反応にせよ、受診動機に繋がりやすいのですが、30歳以下の若年者では、なかなか受診にまで至らないことが多いように思われます。確かに、大腸がんや大腸ポリープなどの腫瘍性病変の確率は低いものの、若年者に多い疾患の可能性も否定できません。代表的なものには潰瘍性大腸炎やクローン病といった特発性炎症疾患(IBD)や若年者に多いポリープで、その名の通り若年性ポリープという疾患もあります。
よって、年齢にかかわらず、血便を認めた場合は早めのタイミングで、専門医への受診をお勧めします。

 

投稿者: 内科・消化器内科 杉本クリニック